「柿渋」とは
こんにちは、扇建築工房の井口慎弥です。
建築塗料の一つに「柿渋」というものがあります。
現代では普通の日常生活に「柿渋」が登場することはほとんどないでしょうから
「「柿渋」って何なの?何がいいの?」
ということで
家づくりを考えている方のために少し紹介してみます。
柿渋とは
柿渋というのは、渋柿のあおい実を潰して搾った液を発酵させてつくられた、
茶色の液体で、こんな感じでボトル入りで売られているものが多いです。
とても臭いのですが、技術的に工夫がされて匂いを抑えたものもあります。
昔は主に漁網の耐久性向上に使われていました。
そのままの網ではすぐに腐ってだめになってしまうところが
柿渋に浸して染めた網はだめにならずに長く使えるということで
ときどき染め直しながら貴重な網を長持ちさせるのに重要な役割を果たしていました。
ほかには紙でつくる和傘に防水性をもたせるため、うちわを強化するため、紙の衣類の強化など。
また濁った酒に柿渋を加えると濁り成分のたんぱく質と結びついて沈殿させる作用があるため
澄んだ酒にする「清澄剤」として欠かせないものとして使われ、現在はこの使われ方が大部分のようです。
抗ウイルス作用も見出されているようです。
建築への柿渋の効果
『建築大辞典』には「渋塗り」という項目があり、「柿渋を塗った仕上げ。含有タンニン酸による防腐効果がある。主として木造外壁に塗る」と説明されている。『図説建築用語事典』には「生渋には水分が八〇%、揮発酸、タンニンが五%含まれ、塗布されると揮発酸や水分は蒸発、揮発し、赤褐色の皮膜を生じ、水やアルコール不溶のものとなる。と防水・防腐効果が現われる仕組みについてもふれている。
引用元:今井 敬潤/著『柿渋』法政大学出版局 2003.10 P101
ということで
建築への利用としては昔から木部に塗って使われていて
その防水作用を生かして漆の木部への吸込みを量を抑える下地として塗られたり
外壁や塀・内外部木部防腐防水にも塗られていました。
住宅の寿命に対して長期間の検証がされている実験は見当たらないので効果の長さについては分かりません。
外部は色抜けが割と早い印象はあります。
木部に塗ると、塗ったときは何も色がついていないかのような感じがしますが
酸化により焦げ茶色に変わっていきます。
塗り重ねると深い色合いになり、好きな方は住み始めてからも何度も塗り重ねる方もいます。
(私がつくったサンプル。基材はシナ合板。)
柿渋は自分で塗りやすい
柿渋は塗料としては扱いやすいので、建て主さん自ら塗るというのも良いですね。
・自分でやる分は費用抑えられる
・家づくりの思い出・ストーリーになる
・完成した後も愛着がわく
・工事中に現場にいるので家づくりの様子が間近で見られる
など
昔も自分ちの柿渋は家族総出で塗ったみたいです。
塗った方の感想を聞くと、自分で塗ってよかった!(けどたいへんで2度はやりたくない)と請け合いです笑。
ちなみに柿渋の本はそんなにたくさん無くて
ひととおり目を通してみても建築に特化した内容にふれているものはそのうち数冊だけでした。
もし柿渋を採用されるのであればせっかくならちょっと読んでみると
より家づくりを楽しめると思いますよ。
自分が採用したものは一体何なのか
興味を持ってさわりだけでも知ってみると
自分の住まいに誇りを持つことができるはずです。
また続きを書きます。
井口慎弥/扇建築工房
参考文献
今井 敬潤『柿渋』法政大学出版局 2003.10
今井 敬潤『柿の民族誌』法政大学出版局 2003.10
日本工芸会近畿支部『工芸の博物誌』淡交社 2001.6
山本和史 岡山大学大学院教育学研究科研究集録 第150号(2012)71-78「柿渋による木材の着色仕上げに関する研究』
岡山県農林水産総合センター森林研究所木材加工研究室『柿渋塗装に関する科学的検証』
島本整 化学と教育 64 巻 7 号(2016 年)『日本文化に根付いた柿渋の化学』